中上健次
鳳仙花 (新潮文庫)
海光る三月。私生児としての生い立ちに昏い痛みを覚えながらも、美しく利発な娘に成長したフサは、十五になった春、生まれ育った南紀の町をあとにした。若々しい肉体の目覚めとともに恋を知り、子を孕み、母となって宿命の地に根をおろすフサ。しかし、貧しくも幸福な日々は、夫の死によって突然に断ち切られた。子供を抱え、戦時下を生き延びる過酷な暮らしの中で、再び燃え立つ女の業...。実母をモデルに、その波乱の半生を雄大な物語へと昇華させた中上健次の傑作長編―匂い立つ“母の物語”。