池澤夏樹
夏の朝の成層圏 (中公文庫)
消費主義の沼地から一番高く離れた梢に登ったのだ。 思わぬ事故で船から海に投げ出された青年は奇跡的に無人島に漂着する。南の島で自然の試練にさらされながらも、自然と一体化する至福を知ることになる。それは、「まるで地上を離れて高い空の上で、成層圏で暮らすようなものだった。」 やがて文明社会に戻る機会を得るが……。 島の精霊たちとの交感、プリミティブな暮らしの深淵な充足感が描かれる一方で、人々が去ってしまった楽園の影に映る「暴力」の歴史も示唆される。 文明というものへの懐疑と人間の性を美しい小説に描き上げた、池澤夏樹の長篇デビュー作。