広大な地下工場で蛹に拘束され、羽化=自由を夢見る男。異様な労働、模造の蝶、監督官による殴打、地中の街。理不尽な状況から逃れるため、命懸けで道化を演じるが――。不条理な世界で人間に本当に必要なものは何か。そこで人はどう生き延びるのか。注目の新人作家が圧倒的力量で放つ、コロナ禍の現実と響き合う傑作長篇。

現実の辛さから人格を乖離して、アルレッキーノと共に生きる道を選んだ天野正一。二頭の獏の幻覚に悩まされながら、次第にアイデンティティを混濁してゆく。人にも蝶にもなれない羽化不全の蛹は不完全なまま適応するしかない。
量産された現代社会は、無機質な秩序を得て管理されるのだ。暴力のなかで生まれる冷たい機械仕掛けの蝶は、憐れむのが酷になるほど滑稽な道化師に似合っていた。
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