中村哲

柳田国男の思想

周知のように、柳田国男は、わが祖先が営々と積み重ねてきたものの探求に生涯をかけた。対象はあくまでもこの島国の風土と人々の生活であった。が、その学問の根底には西欧的な素養が根強く存在している。本書は、柳田と親しく接する機会があった著者が、社会科学者の眼をもって、柳田国男の思想における西欧的な土壌を照射しようとする試みである。祖先崇拝論・民間伝承論を中心に、合理的で実証的な精神、浪漫主義的な発想、19世紀的な自然主義、歴史的相対主義等の多様な要素が剔出され、開明官僚の感覚や保守主義心情のの指摘も含め、その思想の体質と骨格、内的ドラマが浮彫りにされる。柳田国男論の隆盛に先鞭をつけ思想の比較研究に新境地を開いた労作。

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