佐藤吉昭

キリスト教における殉教研究

古代ローマ帝国をも凌ぐ厳しい迫害と壮絶な殉教の悲劇。16~17世紀、世界を震撼させた日本殉教者たちの歴史的現実は、古代殉教者への感情移入と追体験という、西欧キリスト教の伝統的信心生活が生み出した殉教教育の目標が、不幸にして極東の布教地で現実となったことを意味する。本書は殉教教育の背景となった殉教録や殉教者伝などの文書成立過程、そして中世から近世に及ぶ殉教者崇拝の発展過程を追跡することにより、キリスト教誕生から密接不可分な殉教の思想構造の歴史的解明を試みる。殉教とは殉教者を不当迫害の単なる犠牲者ではなく「信仰の証人」として肯定的に捉える思想であり、積極的な一つの主張もしくは自己願望の実現として解明されねばならない。日本キリシタン、古代キリスト教、そして宗教改革後の西欧近世敬虔思想のつながりをたぐりながら、生と死の決断のなかで問われる殉教の本質を追究した神学思想史の労作。

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