葉室麟

潮騒はるか

女の決意の裏には、ある男を思い続ける切ない悲恋が隠されていた。 時は、「安政の大獄」目前、時代の大変革がうねりを上げる中で まことを信じ、生きる人間の姿を描く傑作時代小説。 長崎にある西洋医学伝習所で蘭学を学ぶ夫・亮を追い、 弟・誠之助と彼を慕う千沙と共に福岡から移り住んだ鍼灸医の菜摘。 女だてらに腕を買われて奉行所の御雇医となり、長崎での生活に馴染み だしたところに、福岡から横目付の田代甚五郎が訪ねてきた。なんと 千沙の姉・佐奈が不義密通の末、夫を毒殺し、逃亡したらしい。さらに 尊皇攘夷を唱え脱藩した密通相手の男を追い、長崎に逃げ込んだという。 信じられない思いを抱きながらも、菜摘は奉行所の女牢で、武家の妻女 らしき身なりの女に心あたりを感じる。だが、その女は、腹に子を宿していた――。

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